2017/1/30付
「見えない洪水」。情報があふれる社会に潜むあやうさを、宇宙開発で有名な工学者、糸川英夫さんたちはそう名づけた。いずれ訪れるかもしれない危機を「ケースD」という近未来小説にまとめたのは1979年。インターネットなど、まだ影も形もなかったころだ。
▼小説の舞台は20世紀末。米ソ冷戦は終わり世界の中心は国連に移っている。その国連が特定の勢力にこっそりのっとられ、食料、エネルギー、気象などの偽情報が流され続ける。本当の修羅場はその次だ。この事実が暴露されると、人々は不安から口コミだけを信じ、不確実な情報の拡散とテロで世界は大混乱に陥る――。
▼小説と異なり現実の世界は幸い破局には至っていない。しかし見えない洪水はひたひたと押し寄せているかのようだ。「××氏が××候補を支持」といった偽ニュースがネットで拡散し米大統領選に影響を与えた。当選した新大統領スタッフは「就任式の聴衆は過去最大」などとすぐわかる事実誤認を大まじめに主張する。
▼恐ろしいのは、大統領から一般のネット投稿者まで、あからさまな嘘を連発する人が増えて受け手が「嘘慣れ」し、事実が何かなどどうでもいいと感じ始めることかもしれない。糸川さんらは見えない洪水への対抗策の一つに「高水準の教育に支えられた人々の情報選択能力」を挙げた。話の真贋(しんがん)を見極める目が問われる。
要約
[300/300文字]
情報があふれる社会に潜むあやうさを、糸川英夫さんたちは「見えない洪水」と名づけた。
1979年にはその危機を近未来小説にまとめた。
国連が特定の勢力にのっとられ、偽情報が流され続けていることを知った人々は、不安から口コミだけを信じ、不確実な情報の拡散とテロで世界は大混乱に陥る――。
小説と異なり現実の世界は幸い破局には至っていない。
しかし、偽ニュースがネットで拡散し米大統領選に影響を与えた。
当選した新大統領スタッフは「就任式の聴衆は過去最大」などとすぐわかる事実誤認を大まじめに主張する。
受け手が「嘘慣れ」し事実が何かなどどうでもいいと感じ始めると恐ろしい。
対抗策として「高水準の教育に支えられた人々の情報選択能力」で話の真贋を見極める目が問われる。
[200/200文字]
1979年の近未来小説で、情報があふれる社会のあやうさが書かれた。
国連がのっとられ偽情報が流さていると知った人々は、不安から口コミを信じ、不確実な情報の拡散とテロで世界は大混乱。
現実の世界は破局には至っていないが、偽ニュースは米大統領選に影響を与えた。
新大統領スタッフは「就任式の聴衆は過去最大」などと事実誤認を主張する。
受け手が「嘘慣れ」し事実が何かなどどうでもいいと感じ始めると恐ろしい。
話の真贋を見極める情報選択能力が対抗策だ。