2017/3/27付
春の足は速い。もう3月がつきる。年度替わりである。職場の異動や引っ越しで、あわただしい。雑事にかまけている間にたちまち過ぎる。開花のしらせや寒の戻りは気にしても、風景の変化は見えにくい。それでも、敏感な目は、季節の俊足をしっかりとつかまえる。
▼チェコの作家、チャペックは「自然の行進」と名づけた。3月末、ネコの額ほどの庭にしゃがむ。すると枝先に小さな金の星が光る。若々しい緑が顔を出す。ついに芽の行進が始まったのだ。左、右、と前へ進む。どよめきも聞こえるようだ。しずかな庭が「凱旋行進曲」をかなで出した(小松太郎訳「園芸家12カ月」)。
▼曲が聞こえない場所もある。土地がだまっている。「森友学園」の用地には、ゴミがあふれていた。東京・豊洲市場はいまだに汚染問題がくすぶる。東日本大震災の被災地には、近づけない区域がある。汚れたままの地面もある。芽ぶきの響きは、耳にとどかない。悲しげな緑の声が、かすかに鳴っているのかもしれない。
▼先を考えない。今がよければと、大地の営みに思いをいたさなかったからではないか。そんな土地ばかりが増えては、春のいぶきも感じられなくなる。将来を考え、庭を整え、草木を育てる。園芸家精神にちょっと学んではどうか。チャペックは木を植えると、100年後、ここが巨大な森になると心の中で思ったそうだ。
要約
[294/300文字]
春の足は速い。
開花のしらせや寒の戻りは気にしても、風景の変化は見えにくい。
それでも、敏感な目は、季節の俊足をしっかりとつかまえる。
チェコの作家、チャペックは「自然の行進」と名づけた。
3月末、ネコの額ほどの庭に若々しい緑が顔を出す。
しずかな庭が「凱旋行進曲」をかなで出した。
曲が聞こえない場所もある。
土地がだまっている。
「森友学園」の用地には、ゴミがあふれていた。
東京・豊洲市場はいまだに汚染問題がくすぶる。
東日本大震災の被災地には、近づけない区域がある。
先を考えない。
今がよければと、大地の営みに思いをいたさなかったからではないか。
そんな土地ばかりが増えては、春のいぶきも感じられなくなる。
将来を考え、庭を整え、草木を育てる。
園芸家精神に学んではどうか。
[195/200文字]
春の足は速いが敏感な目は、それをしっかりとつかまえる。
チャペックは「自然の行進」と名づけた。
3月末、庭の若々しい緑が「凱旋行進曲」をかなで出す。
曲が聞こえない場所もある。
「森友学園」の用地には、ゴミがあふれていた。
豊洲市場はいまだに汚染問題がくすぶる。
東日本大震災の被災地には、近づけない区域がある。
先を考えず今がよければと、大地の営みに思いをいたさなかったからではないか。
そんな土地ばかりが増えては、春のいぶきも感じられなくなる。