2016/9/22付
ふと目が止まる。店先に、珍しい果実が並んでいた。薄い赤紫で、ずんぐりしている。山野に自生しているアケビである。ほのかに甘く、眺めていると、秋風の吹く山道や茂みが浮かんでくる。この果物によく似た仲間に、古語「むべ」が名の起源となったムベがある。
▼昔、天智天皇が無病長寿の果実を食べて、「むべなるかな」(なるほど)とうなずいた。この一言が名前になったという。名付けるほどだから、よく使う言葉だったようだ。六歌仙の一人、文屋康秀は「吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ」と詠んで、山風が「嵐」とはもっともだ、と得心している。
▼自然にはとても歯は立たないが、「むべ」な嵐とは呼びたくない。列島を横断した台風16号の被害は20府県に及んだ。秋の草木がしおれるどころではない。大雨による浸水や停電など、むごい爪痕を残した。8月以降に上陸したのは6つ目。異例の気圧配置が原因らしいが、水の怪獣が次々に日本を襲ってきたかのようだ。
▼水の怪獣といえば、竜である。古代中国の伝説によると、水から生まれた。変幻自在で、虫ほどに小さくなる。巨大化して、世界を覆い尽くす。春分になると、天にかけ昇り、恵みの雨をもたらす。今日、秋分には、地上に降り、淵に潜む。静かに来春を待つのだそうだ。もう雨は十分である。あとは暦通りにと願いたい。
要約
[284/300文字]
古語「むべ」が名の起源となったムベという果物がある。
六歌仙の一人、文屋康秀は「吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ」と詠んで、山風が「嵐」とはもっともだ、と得心している。
自然にはとても歯は立たないが、「むべ」な嵐とは呼びたくない。
列島を横断した台風16号の被害は20府県に及んだ。
大雨による浸水や停電など、むごい爪痕を残した。
8月以降に上陸したのは6つ目。
異例の気圧配置が原因らしいが、水の怪獣が次々に日本を襲ってきたかのようだ。
水の怪獣といえば、竜である。
春分になると、天にかけ昇り、恵みの雨をもたらす。
今日、秋分には、地上に降り、淵に潜む。
静かに来春を待つのだそうだ。
もう雨は十分である。あとは暦通りにと願いたい。
[187/200文字]
自然にはとても歯は立たない。
列島を横断した台風16号の被害は20府県に及んだ。
大雨による浸水や停電など、むごい爪痕を残した。
8月以降に上陸したのは6つ目。
異例の気圧配置が原因らしいが、水の怪獣が次々に日本を襲ってきたかのようだ。
水の怪獣といえば、竜である。
春分になると、天にかけ昇り、恵みの雨をもたらす。
今日、秋分には、地上に降り、淵に潜む。
静かに来春を待つのだそうだ。
もう雨は十分である。あとは暦通りにと願いたい。