2016/10/27付
川という川が無残に荒らされた光景を、そのとき初めて見た。東日本大震災のあと、内陸から被災地への道で目に飛び込んできたのは河川の惨状だった。海の気配などまるで感じさせぬ上流まで、津波は遡ったのだ。漁船の残骸が、海岸のガレキが、河原に散っていた。
▼過去に幾度も津波に襲われてきた三陸地方の人々でさえ、この魔物が川をみるみる何キロも遡上するというのは想像しにくかったという。だから74人の子どもたちが犠牲になった宮城県石巻市の大川小学校の悲劇も、先生たちにしてみれば「まさか」の極みではあっただろう。大川小は北上川の河口から約4キロ。まさか――。
▼遺族が市と県に損害賠償を求めた訴訟で、きのう、仙台地裁は訴えをほぼ認める判決を言い渡した。地震発生。刻々と迫る危機。しかし頭にこびりついた「まさか」にとらわれ、現実を見極められなかった過ちを判決は厳しく問うている。市の広報車が高台避難を呼びかけるなかで児童らの命を救うすべはあったのに、と。
▼津波が襲いかかる直前になって、それでも先生たちはみんなを引き連れて動いた。けれど向かった先が裏山ではなく、門の外の交差点だったのは何という痛恨事だろう。そこは小高い丘だが、いままさに荒れ狂おうとする川の縁だった。5年半が過ぎた。判決は下った。なのにこみ上げる苦いものが、一向に胸を去らない。
要約
[295/300文字]
東日本大震災のあと、被災地への道で目に飛び込んできたのは河川の惨状だった。
海の気配などまるで感じさせぬ上流まで、津波は遡ったのだ。
過去に津波に襲われてきた三陸地方の人々でも、この魔物が川を何キロも遡上するというのは想像しにくかったという。
74人の子どもたちが犠牲になった大川小学校の先生たちにしても「まさか」の極みだったろう。
きのう、仙台地裁は訴えをほぼ認める判決を言い渡した。
「まさか」にとらわれ、現実を見極められなかった過ちを判決は厳しく問うている。
北上川の河口から約4キロで先生たちはみんなを引き連れた先が荒れ狂おうとする川の縁。
何という痛恨事だろう。
5年半が過ぎ判決は下った。
なのにこみ上げる苦いものが、一向に胸を去らない。
[189/200文字]
東日本大震災のあと、被災地への道で目に飛び込んできたのは河川の惨状だった。
津波が川を何キロも遡上するというのは想像しにくかったという。
74人の子どもたちが犠牲になった大川小学校の先生たちにしても「まさか」の極みだったろう。
5年半が過ぎ、仙台地裁は訴えをほぼ認める判決を言い渡した。
「まさか」にとらわれ、現実を見極められなかった過ちを判決は厳しく問うている。
判決は下ったのにこみ上げる苦いものが、胸を去らない。