2017/3/1付
林芙美子晩年の代表作「浮雲」のキーワードは「仏印」である。いまのベトナムなどにあたるフランス領インドシナ――これを仏印と呼んだ戦時中に当地で出会った男と女。日本に引き揚げてきた2人は戦後の社会に戸惑いつつ追憶に浸る。戦争が翻弄した恋の物語だ。
▼男は農林省の技師、女はタイピストで、日本軍の仏印進駐を受けて役所から高原都市のダラットに派遣される。フランス風の街並み、内地とは別世界の穏やかな日々……。太平洋戦争末期の東南アジアに、こんなエアポケットのような場所があったのだ。それはもちろん、かりそめの平和、かりそめの豊かさではあったが。
▼そういう歴史を記憶にとどめる人は、いまわずかだろう。しかし終戦時、仏印駐留の日本兵は約8万人にのぼった。芙美子が描いたような人々も少なからずいたはずだ。ベトナムは日本と深い縁を持つのである。この国を巡る旅を、天皇、皇后両陛下がきのう始められた。お互いが両国のつながりを知る契機になるといい。
▼「浮雲」の2人は苦労しながらも祖国の土を踏むが、日本兵のなかには現地に残ってベトナム独立戦争に加わった人もいた。両陛下はその家族にも面会されるという。「この戦争は、日本人に多彩な世界を見学させたものだ」と芙美子は主人公に述懐させている。さまざまな物語をようやく終わらせる、初の訪越であろう。
要約
[296/300文字]
林芙美子晩年の代表作「浮雲」のキーワードは「仏印」。
戦争が翻弄した恋の物語だ。
いまのベトナムなどにあたるフランス領インドシナ――これを仏印と呼んだ戦時中に当地で出会った男と女。
日本に引き揚げてきた2人は戦後の社会に戸惑いつつ追憶に浸る。
そういう歴史を記憶にとどめる人は、いまわずかだろう。
しかし終戦時、仏印駐留の日本兵は約8万人にのぼった。
ベトナムは日本と深い縁を持つのである。
この国を巡る旅を、天皇、皇后両陛下がきのう始められた。
お互いが両国のつながりを知る契機になるといい。
日本兵のなかには現地に残ってベトナム独立戦争に加わった人もいた。
両陛下はその家族にも面会されるという。
さまざまな物語をようやく終わらせる、初の訪越であろう。
[197/200文字]
林芙美子の「浮雲」は、いまのベトナムなどにあたる仏印で戦時中に出会った男と女の恋の物語だ。
日本に引き揚げた2人は戦後の社会に戸惑いつつ追憶に浸る。
終戦時、仏印駐留の日本兵は約8万人にのぼった。
日本と深い縁を持つベトナムを天皇、皇后両陛下が巡られる。
両国のつながりを知る契機になるといい。
両陛下は、現地に残ってベトナム独立戦争に加わった日本兵の家族にも面会されるという。
初の訪越はさまざまな物語をようやく終わらせるだろう。